【イタリア旅雑記 2】ローマの警察


2010年5月2日〜8日

ローマに着いた日の深夜、部屋のドアが激しく叩かれる音で目が覚めた。そっとドアスコープを覗くと白人がドアを叩いている。
部屋を間違えたらしい。ベッドに戻って時計をみると、針は3時15分を指していた。「ここはローマだ」という意識が次第に強まり、目が冴えてしまった。迷 惑極まりない。
寝る努力を試みたが、誰もいないローマの街を撮ってみようと思い付き、急いで着替え、三脚担いで街にでた。
さすがに人影はほとんど見えない。黄色灯に照らされた街並みや路地を撮り、テルミニ駅を1周してみた。駅の東側には、路上で寝ている人々がいて、
どう見ても電車に乗り遅れ、仕方なく1夜限りの野宿という様子ではなかったので、きっとローマのホームレスなのだろう。駅の裏側に回ると、そこはトンネル になっていて、このまま進もうか、来た道を戻ろうかと考えたが、好奇心が不安に勝り、誰も姿が見えないのを確認して歩みを進めた。
トンネルの3分の1ほど進んだときに前方から人の歩いてくる姿を認めた。徐々にお互いの歩みによって距離が近くなる。顔が見えた。
おそらくアメリカ大陸の血が混じったスペイン系の男性だ。歩きながらも何気なく力が入り、いざすれ違う時にはお互い意識しているのを痛いほど感じる。
すれ違ってすぐに、背後をとられるのが心配で、彼の姿を目で追いながら、「回れ、右」をする形になった。すると彼もすれ違った瞬間振り向いた。はじめて目 が合った。
彼はウインクをした。お互い笑って、それぞれ背を向け歩き出した。
相手も警戒していたようだ。




やはり人がいないところは危険だと思い、テルミニ駅に入ってみた。さすがにまばらにではあるが駅構内には人がいる。
数日後に乗車する予定のユーロスターイタリアの写真を撮ろうと思い、三脚をセットしていると、ちょっと遠くで声が聞こえたが、集中してファインダーを覗い ていたで、
無視してシャッター押した。すると今度は至近距離で声が聞こえたので見上げると、警官が二人立っていて、なにやらイタリア語で怒っている。
僕が言葉を理解しないせいか次第に語気が強まる。英語や日本語で説明しても全くわかってくれない。そして、「カモン」といいながら歩き出そうとする。
英語が話せるなら、少しは僕の英語も聞いてくれ。連行されるのは勘弁してほしいと話を聞いてもらおうとすると、
遠くから可愛い女の子が切符らしきものを持って僕らのところに走ってやってきた。位置的には走ってきた女の子と僕が正面に向かい合って立ち、
その間に警官二人が女の子方を向き、僕に背を向ける格好になった。イタリア男性は女性にやさしい。そして女性が好きだ。そのおかげで僕は助かった。
僕はいつの間にか蚊帳の外。背後から「あのー」と声を掛けてみるが、振り向く気配もない。「行っちゃいますよ」と言っても耳に届いていない様子なので、
2、3歩さがってみたが、なんの反応もない。思い切って警官に背を向け、振り返りもせず、自然を装い歩き出した。駅を出た瞬間、走ってホテルに戻り事なき を得た。
ローマに着いた日に、あやうく警察に連行されるところだった。ドラマや小説では助けてくれた美女と、僕のラブロマンスが始まりそうだが、現実はそんなに甘 くない。
ローマに来て、8時間でとても多くの経験をした。
あとでわかったことだが、駅構内など公共の建物内や、遺跡の敷地内での三脚を使っての撮影がいけなかったらしい。


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